タカラバコ

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iPodに何百と入ってる曲をシャッフルで流していたら、たまたま流れてきた曲が、いま目に映ってる景色とか温度とか匂いと妙にマッチして不思議なきもちになることが、たまにある。

家からはなかなか離れた土地に向かう途中、すこし時間に余裕があったからさ。人がぎゅうぎゅうに押し込まれた快速列車を見送って、各駅停車を待っていたら、何百の中から選ばれて流れた曲が、そのときいた場所の空気感となんだかものすごくマッチした。そのアルバムのなかでも別にとくにお気に入りの曲なんてわけじゃなくてさ、どちらかというと、いつもはなんとなく聴き流していた曲が、そのときはどんな曲よりも素敵な曲に聴こえたんだ。

もう季節は春だというのに風がすごく冷たくて、いまにも雨が降りそうな、たくさんの暗い雲の隙間からはスカイツリーが見え隠れしてた。ホームからすぐ下に見えるのは、怒られちゃうかな、すこし錆びれた街で、如何わしいお店の電光看板がピカピカとやたら目立ってたりしてさ。

この曲をかいたひとは、ものすごく晴れた日にこの曲をかいたかもしれないし、ものすごく楽しいきもちでこの曲をかいたかもしれないけど、ドンヨリしたお天気のなか聴いてた私はものすごく哀しいきもちになった。その哀しみがものすごく心地よかったんだ。

聴いていてボンヤリ頭に浮かんだのは、懐かしいひとの顔だった。恋愛感情とも尊敬のきもちともすこし違うけれど、そのひとのことがすごく好きだったんだ私は。もう滅多に思い出すこともないひとだけど、これから向かう場所でもそのひととの思い出があるんだだからかな。私どんな種類の「好き」でも、好きなひとのことを想うときはとても楽しいし、好きなひとのことが好きな自分のことも好きな場合が多いのだけど。あのひとのことを好きな自分だけはどうしても好きになれなかった。好きでいても全然楽しくなかった。もうモヤモヤが収まらなくなっちゃってさ、ある日 好きなきもちを投げ出してしまったんだ。

あぁでも今あのひとのことを思い出してしまった自分のこのきもちすごく好きだなぁって。もう会うこともないんだろうなぁって思ったらちょっぴり切なくなった。こんな風に思い出したの初めてだなぁなんて思っていたら、iPodは曲を次に進めていたけど。


…なんていう日があってから、その曲を聴くと、このドンヨリした天気と 冷たい風と 哀しくなったきもちをパッと思い出してしまう。なんだか不思議だね。

 

「曲の解釈は人それぞれであってほしい」なんて言葉が、とても理解できた出来事でした。


すごく好きだったことも、好きでいることを辞めてしまったことも、
「ぼくはすこしも後悔してないよ。」