タカラバコ

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めぐすり


ゆらゆらと一緒に揺られながら窓の外を眺めていたら、ああ、前回この電車に乗った時はまだ交換したばかりのラインでお互いにこれから遊びに行く場所の話とかしてたなぁ、なんて思い出して懐かしい気持ちになった。
匂いとか気温とか景色とか、一瞬でいつかの思い出を蘇らせてくるからほんと不思議だと思う。


一緒にいても幸せにはなれないと気づいたのは随分前で、「好きになる前に気づけてよかった〜!」なんて言いながらその人のことを考えない日が1日もないまま、季節はいつの間にか3つ過ぎて、なぜか私は今、咲き始めたばかりの桜の木の下を一緒に歩いている。


楽器、お酒、カメラ、水タバコ、水族館、可愛いアイドル、オシャレ、ある種の女がいかにも好みそうな趣味を兼ね揃えていながら、
仕事ができる、料理もできる、運転もできる、女の扱いはうまい、家族と友達を大事にする、とにかく優しい、おまけに顔が良い、こんな人って存在するのね。


綺麗な目を隠す前髪、細くて高い背、流行に媚びないセンス、女の私よりも高い美意識、それと…

恋に恋するってこういうことなのだろうか。あの人を見て抱くすべての感情にわくわくして、あの人ことを考えているときのふわふわとした感覚があまりにも心地良くて。


実現する気のない口約束、無責任に発される言葉、良くも悪くも常に多情、エベレスト級に高い理想、その理想に良い意味で私が当てはまることはきっとないこと…

それすらももうときめきの材料にしかならなくて。
べつに相手に好きになってもらえなくてもいい、なんていうのはただの強がりだけれど、見返りなんて一切求めなくても好きでいるだけでものすごく幸せだった。たとえそれが言い慣れたリップサービスでも嬉しくて、騙されてるフリを続ければずっとこのままでいられるのなら、すべてが嘘でもいいと思えるくらい、深く深くまで落ちた。


人間として真っ当な思考ではないのかもしれないけれど、10代の頃から、好きな異性のタイプを聞かれては「上品なクズ」と答えまわりをドン引きさせていた女がこんな理想120点のハイスペッククズに出会えることもあるのだから、人生そんなに悪いもんじゃないと思う。こんな望み通りの人に出会える奇跡、人生で何度あるのだろうか。

もし仮に、これから出会う運命の赤い糸とやらで結ばれた相手がいるのだとしたら、こんな過去がある女嫌だろうなぁとは思うけれど。

誰かを傷つけることも傷つくこともないのならば、私は自分のこの愛おしい感情と幸せになりたい。




まるであの人が好きなアイドルのような。

きゅるきゅるに可愛い音楽を聴きながら、瞼にピンクを重ねてフリフリの洋服を着たら、なんだか無敵で可愛い女の子になれた気がして、ほんとはそんなに好きじゃないのにあの人の趣味に一人で何度も通った。
あの人の「好き」の気持ちを少しでも知りたくて、同じ気持ちになってみたくて、それが楽しくて私も好きになった。理想になるより、私は好きな人と同じことがしたい気持ちが人一倍強い。


次に会える日までに少しでも可愛くなろうと思うだけで、自分のためにはしない自分磨きも、仕事帰りにスーパーまで遠回りして自炊をすることも、知らない人とお喋りしに出かけることも、好きになった。
なんてことのない日常なのに、きっと今日もあの人の頭の中に私はいないのに、好きでいるだけで毎日がなんだか色鮮やかに見える。恋は麻薬って言葉は本当かもしれない。


ああ、こんなに好きなのに、いざ会うと喉がきゅーっとなってじょうずに喋れないし、いちばん可愛い自分で戦いたいのに、いざ目の前にすると戦闘力ゼロどころか武器握る握力すらなくなってしまう。負け!負け!今日も惨敗!


もしも私があの人だったら、こんな女に、家や職場や趣味や家族や自分の過去なんて内緒にしたいし、ましてや大事な友達に会わせるなんて絶対にしたくないのにあの人はなんでも教えてくれる。ああ、どうして、そんなに優しくしないで!そんなに秘密を教えないで!そんなに近づかないで!




もう夢からは覚めているのかもしれないけれど、寝ぼけまなこが気持ち良い。幸せな目覚めだ。
薄れていく夢の余韻にもう少し浸っていたいけれど。



あの人がいつか忘れていった目薬を返した。
2人が一緒にいたことを証するものは他になにもない。

この愛おしい気持ちもいつか忘れてしまうのかもしれないけど、いつまでも良い思い出として思い出せますように。
好きでいられてすごく幸せでした、最後にひとつお願い聞いてくれるかな。






フェイクワールドワンダーランド

フェイクワールドワンダーランド

最初の2曲はあの人が好きな曲、最後の2曲は今の私が好きな曲。